あけましておめでとうございます。
 今年は丑年!
 牛は、古くから酪農や農業で人間を助けてくれた大切な動物でした。大変な農作業を最後まで手伝ってくれる働きぶりから、丑年は「我慢(耐える)」、「これから発展する前触れ(芽が出る)」というような年になるといわれています。
 令和になって初めての丑年。2020年は新型コロナウイルス・パンデミックによって世界中が多くの困難に見舞われましたが、2021年は皆でコロナを克服し、希望に満ちた年になることを願うばかりです。
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1 トレーサビリティ

 新年の第五弾は、牛にちなんだお話しを一つ!

 過去に世間を震撼させた牛の脳の中に空洞ができてスポンジ状になる感染症のBSEに対するその後のまん延防止措置の的確な実施や個体識別情報の提供の促進などを目的として「個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」に基づいて、牛トレーサビリティ制度を運用していますよね。
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 具体的には、国内で飼養される牛に黄色の耳標を装着し、

耳標につけられた10桁の個体識別番号を、生産から流通・
小売に至るまで伝達し、管理する。問題が起こったときに、
この番号をたどって追跡して原因を究明し、また商品の回
収を最小の範囲で迅速に行える仕組みです。テレビの映像
などで牛の黄色の耳標を見ると牛肉に対する消費者の信頼
や安全確保ができていると感じます。


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   さて、この時に「トレーサビリティ」というワードに聞き覚えのある方も多いのではないかと思います、計量業界でもこの「トレーサビリティ」というワードは古くから使われていて、一般に使われている計量器や測定器が国家計量標準、国際標準に繋がっていることを確認する校正の連鎖のことを言います。

 現場で利用される計量器や測定器は、より正確な標準器によって校正され、更に、その標準器は、より正確な標準器によって校正され、最終的には国家計量標準、国際計量標準に辿り着きます。この切れ目のない比較の連鎖によって決められた基準に結びつけられる測定結果又は標準の値の性質が「トレーサビリティ」となります。

 そこで今回は、何気なく使っている「キログラム」が国際的にどのように決められているのかをお話しいたします。

2 キログラムの歴史

 先人たちは、国の利益ではなく世界の理解を得るため、国によってバラバラだった計量単位をフランスで生まれたメートル法に統一し世界に普及を目指しました。そして、1875年5月20日にパリで17カ国の代表により「メートル法を国際的に確立し、維持するために、国際的な度量衡標準の維持供給機関として国際度量衡局を設立し、維持することを取り決めた多国間条約」を締結しました。

 当時、質量の基本単位である「キログラム」の定義については、1kgが「一辺が10 cmの立方体の体積の最大密度(4℃)における蒸留水の質量」とし、1kgを実用的な白金の分銅に置き換えていました。

 その後1889年には質量がより変化しにくいものとするために、当時最高の冶金技術で造った直径、高さとも約39 mmの円柱形状で、白金90%、イリジウム10%の合金でできている「国際キログラム原器」に定義が置き換えられました。世界の約束事としてこの「国際キログラム原器」を1kg とし、2019年5月19日までこの定義が用いられてきました。驚くべきことに約130年間同一の分銅が質量の基準だったのです。 
 ただ、表面の汚れなどで国際キログラム原器の質量は、100年の間に、50μg変動した可能性のあることが分かっていました。1 kgの1億分の5という非常にわずかな変動ですが、無視することができない大きさです。科学が進歩していくと、正確さへの欲求も上がり、「国際キログラム原器」の安定度が物足りなくなってくるという事態が発生しました。そこで原子が安定して並んでいるシリコン単結晶の登場によって、2004年に新たな定義をつくる国際プロジェクトがスタートしました。この定義値を決定するために、日本の国立研究開発法人産業総合研究所様を含むアメリカ、カナダ、フランスの研究所で国際キログラム原器の質量の長期安定性である1億分の5を凌ぐ精度で測定する試みが行われました。
 2019年には「国際キログラム原器と同一のシリコン単結晶の球体」の大きさを厳密に測り、その体積から原子の数を割り出して次の方法により1kgを定義すると改訂され、2019年5月20日の国際計量記念日から施行されています。

1キログラム = プランク定数を6.62607015×10のマイナス34乗ジュール・秒(Js)とすることによって定まる質量
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  ↑キログラム原器     キログラム原器に代わる単結晶シリコン球体の超高精度のレーザー干渉計と表面分析システム
               によるシリコン原子数計測


3 プランク定数とキログラムの関係

 そもそも、このプランク定数とキログラムは、どのような関係にあるかをご説明します。

 プランク定数とは、量子力学で出てくる光の持つエネルギーの最小単位に関係する物理定数で、この定数から電子1個の質量を導き出すことができます。電子と任意の原子の質量の比は正確に分かっていますので、プランク定数を基準として、非常にたくさんの数の原子の質量によってキログラムが表現でき、物理定数なので時間がたっても不変です。

 定義改定後、日常においては何も変わりません。むしろわずかであってもkgの数字が変わったら困りますし、何も変わらないのが最も正しい改定のありかただといえますが、サイエンスの世界では変化が起き、新薬の開発(創薬)や微粒子などを対象とする環境計測などの分野でのテクノロジーの進歩に寄与するものと期待されているところです。

 それにしても、長さや重さの単位が地域でバラバラのままだったら、どんな世界になっていたでしょうね。

※今回の編集にあたり、国立研究開発法人産業総合研究所様のホームページから質量の定義改訂に関する文章及び写真を引用させていただきました。